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終末期医療を考える…「どう生きる」医師と話そう

医療ルネサンス 仙台フォーラム

 どうやって、自分らしい最期を迎えるか。納得できる理想的な最期とは――。「終末期医療を考える」をテーマとした「医療ルネサンス仙台フォーラム」が5月21日、仙台市青葉区の電力ホールで開かれた。終末期医療や在宅ケアに詳しい3人の専門家が、自らの取り組みや意見を紹介しながら白熱した議論を交わし、集まった600人余りの市民は、真剣な面持ちで聞き入った。

http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news/iryou_news/20090619-OYT8T00599.htm

[基調講演]自然の摂理に従う尊厳死

名古屋学芸大学長、井形昭弘さん

いがた・あきひろ 東大医学部卒。鹿児島大学長、脳死臨調委員などを歴任。現在、日本尊厳死協会理事長も務める。神経病学などが専門。80歳。 「願はくは花の下にて春死なむ そのきさらぎの望月の頃」。西行法師の詠んだ和歌です。日本は長寿世界一を達成しましたが、死ぬ時に苦しまず、安らかで美しい最期を迎えたいと思うのは、今も昔も多くの人に共通するのではないでしょうか。

 従来の医学は延命至上主義で、死は医学の敗北を意味しました。しかし、医療技術が進歩して長寿が実現すると、延命措置がかえって患者に苦痛を強制し、尊厳ある生を冒す場面が多く見られるようになりました。このため、自然の摂理に従って死を迎えたいという尊厳死運動が、世界中で広がりました。

 日本尊厳死協会が提案する「リビングウイル」(書面による生前の意思表示)は、不治の状態で死期が迫ったり、植物状態が続いたりした場合に延命措置を拒否するものです。協会が保管し、必要な時が来れば、主治医に示します。

 毎年の遺族への調査では、95%前後は「主治医はリビングウイルに協力的だった」と回答しています。

 現代の医療では「インフォームド・コンセント」(納得診療)という考え方が定着しました。患者と医師が正しい情報を十分に共有した上で、最終的な選択は患者自身が行う「自己決定権」が尊重されています。

 動物実験では、心臓が止まりそうになると、脳の中でエンドルフィンなどの快感物質が増えるというデータがあります。臨死体験では、きれいな花畑を見て幸せだと思ったら、呼び戻されたという話が多数あります。

 死ぬ時に幸せになる仕組みが生物に備わっているとすれば、いたずらに延命措置を続けることは、神様が与えてくれた仕組みを無視して、命だけを長引かせていることになります。

 尊厳死は、医師が注射や毒物投与などで死期を早める安楽死とは根本的に異なります。尊厳死協会は、安楽死には反対です。自己決定権は「死に至る過程を選ぶ権利」であり、自殺を容認している訳ではありません。

 秦の始皇帝は不老長寿の薬を求めたと言われますが、50歳で没しています。今の日本では、彼らの考えた不老長寿の6~7割は実現していると言えるでしょう。運動で体力作りに励み、食べ物に留意して、良い生活習慣を身につけ、健康寿命を延ばす。その上で医療と福祉の恩恵を最大限利用して、最期は安らかな死を迎える。みなさんの努力や考え方次第で決まります。

人工呼吸器、尊厳失われない

仙台往診クリニック院長 川島孝一郎さん

かわしま・こういちろう 北里大医学部卒。在宅医療の草分け的存在で、東北大医学部臨床教授や国の終末期医療に関する懇談会委員も務める。55歳。 人工呼吸器をつけている人に対して「尊厳がない」というイメージを持つ方がいますが、これは間違いです。人の尊厳は、増えたり減ったりするものではありません。QOL(生活の質)が低下することで、尊厳を失ったと錯覚しているだけです。

 私の患者には、全身麻痺(まひ)で一人暮らしを続ける60代の女性がいます。女性は医療・福祉制度を駆使することで、QOLを保ちながら、きちんと生活しています。

 医師は本来、患者に対し、病気の説明だけでなく、豊かな人生を送るためのアドバイスをしなければなりません。しかし、制度をよく勉強している医師は、少ないのが実情です。痛みなどの緩和治療もしかりです。

 終末期も、一律に定義することはできません。呼吸器をつけたからと言って終末期とは限りません。だが、よく分かっていない医師は、すぐに呼吸器を外そうとします。尊厳死という言葉を簡単に受け入れるべきではありません。

 これからの医療は、治らない患者を支えていく仕組みが求められます。患者も、最期までより良く生きるための説明を医師に求めていく姿勢が必要です。


ささやかな願い、生きる力に

穂波(ほなみ)の郷(さと)クリニック・ゼネラルマネジャー(宮城県大崎市) 大石春美さん

おおいし・はるみ 淑徳大社会福祉学部卒。医療ソーシャルワーカー。独創的な在宅ケアを実践し、昨年、医療の質・安全学会から表彰された。49歳。 2005年にクリニックを開設して以来、患者であり、人生の先輩でもある150人以上の方々と出会ってきました。私たちが取り組んでいる「緩和ケアプロジェクト」の一部をご紹介します。

 悪性リンパ腫で余命3か月と診断された80代の女性は認知症の影響で、献身的に看病する5人の子供たちに乱暴な言葉を吐くようになりました。女性と子供たちの間で、気持ちがすれ違い始めました。女性に残された時間はわずかです。親子関係を修復する家族パーティーを企画しました。女性は「子供はみんなかわいい」と漏らし、子供たちに笑顔が戻りました。この一言でわだかまりが消え、家族は優しい気持ちで看取(みと)りました。

 肺がんで余命2か月となった70代の男性は、暗く沈むばかりでした。明るい気持ちを取り戻してもらおうと、男性が趣味で、木の枝を利用して作っていたカッパのオブジェ(造形物)の個展を開きました。地域の人に大好評で、男性は作品を写真集にまとめることを次の目標にしました。

 患者のささやかな願いを拾い上げて実現することが、明日を生きる原動力につながります。

パネルディスカッション

パネリスト

 名古屋学芸大学長、井形昭弘さん

 仙台往診クリニック院長 川島孝一郎さん

 穂波(ほなみ)の郷(さと)クリニック・ゼネラルマネジャー(宮城県大崎市) 大石春美さん

コーディネーター

 前野一雄・読売新聞東京本社編集委員

◆医療の役割

 ――患者が死の間際に満足感を得られれば理想的ですが、医療はどんな役割を果たせるのでしょうか。

 井形 痛みが解決しても、死んだらどうなるのかなどの精神的な悩みは尽きません。健康寿命を全うして、その人なりの安らかな最期を迎えられるように支えるのが医療の責務でしょう。これからの医療倫理には、延命がその人の幸せにつながるのかという視点が必要です。

 ――医療が逆に最期の瞬間の満足を妨げているところはありませんか。

 大石 満足は、自分の運命を受け入れ、悔いのない生き方をした先にあります。でも、医師や看護師に遠慮して、意思表示ができなかったという話もよく聞きます。患者が胸の内を素直に伝え、新しい自分や感動を発見できるような環境作りが大切です。

 ――患者の希望を実現するために、どんな努力を心がけていますか。

 川島 死の瞬間は、自分では知ることができません。つまり満足な生は経験できても、満足な死かどうかは判断できない。だから、患者と腹を割って一生懸命話し合い「ああよかった」と共感できる生き方を探していく。その積み重ねの中で、ある日、死が訪れると考えています。

 ――「こんな最期を迎えたい」と自ら提案する患者はいますか。

 大石 きょう会場にみえた筋萎縮(いしゅく)性側索硬化症の佐々木すみ子さんは、人工呼吸器をつけない道を選びました。地元の中学校で講演し、生の意味を問いかけるなど挑戦の日々を続けています。どう死ぬかではなく、どう生きるか。その勇気に感動するばかりです。

◆「在宅」支援

 ――自宅での最期を望んでも、現実には「やむを得ず病院で」という方も多いのでは。

 井形 高齢者は、最期はやはり住み慣れたところを望みます。国はこうした要望に応えるため、新しいタイプの高齢者住宅の充実を推進しています。高齢者住宅は医療と福祉を完備し、最期まで自分らしい生活をサポートする。みじめな死を迎えるような事態は、いずれなくなるはずです。

 ――在宅医療を普及させる上で課題は。

 川島 国は2006年に「在宅療養支援診療所」という制度を作りました。しかし、実際には、在宅医療にたどりつけずにいる人が大部分です。その原因は、生きることを十分に説明しない医者にあります。説明が不十分なまま、リビングウイルを作成するのは本末転倒で、安易に同意してはいけません。

 ――日本の家庭では、死は話題から遠ざけられがちです。本当にそれでいいのでしょうか。

 井形 延命を拒否するのではなく、徹底して続けてほしいというのも、またリビングウイルです。重要なのは本人の意思を尊重することです。考えが変われば撤回や変更もできます。みなさんが健康なうちに、家族ともよく話し合いながら、ぜひ自分の死について考えてみて下さい。

 主催 読売新聞社

 後援 宮城県、仙台市、宮城県医師会、仙台市医師会、ミヤギテレビ

(2009年6月18日 読売新聞)

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