医療費を抑えると、医療保険制度が崩壊する、そんなバカな…~『後期高齢者医療制度』
12月1日付の朝日新聞を見て、思わず目を疑った。同紙の全国主要自治体72市区を対象にした調査によれば、「後期高齢者医療制度(75歳以上加入)」で、保険料を滞納している人が約20万人にものぼるという(10月末時点)。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/life/20081203/179070/
後期高齢者医療はウムを言わせぬ保険料の年金天引きのはず。それ自体、大いに問題があるが、滞納者が20万人とは!?
じつは、年金額が年18万円未満の高齢者は、保険料を現金で払うか、口座振替などで支払うことになっている。そのうち約20万人が、払えていないのだ。このなかには低所得者や長期入院中の人たちが、相当の数いるとみられる。
滞納が1年間続くと、病気などの特別な事情がない限り、「保険証の返還」を求められ、「無保険」状態になる。その後、保険証がなければ、病院にかかった場合、ひとまず全額を自己負担しなければならない。はたして保険料を払えない高齢者が、診療を受けに行けるだろうか。
自営業者や定年退職した74歳以下の高齢者、失業者などが入る国民健康保険では、親の保険料滞納で「無保険」状態の中学生以下の子どもが全国で約3万3千人もおり、大きな社会問題になっている。
今回の朝日新聞調査は、後期高齢者医療の全加入者の約3割をカバー。大ざっぱに推計すれば、全国で約66万人以上の後期高齢者が「カネの切れ目が命の切れ目」の状態にあるといえよう。後期高齢者医療は、1年もたたないうちに空洞化の危機到来だ。
野党四党が共同で提出した「後期高齢者医療制度廃止法案」は参議院で可決し、衆議院で継続審議となっている。
私見を述べれば、廃止法案(=現行法の廃止)に賛成だ。憲法25条「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利(生存権)」に立ち返り、後期高齢者医療は、いったん従来の「老人保健制度(保険証の返還規定なし)」に戻し、財源を含めてもう一度練り直したほうがいいと思う。
そもそも「医療費の抑制」につながるのか?
75歳で加入者を線引きして健康保険や国民健康保険から切り離し、低所得者からも強引に保険料を徴収する後期高齢者医療は、大勢で支えあう社会保険にはなじまない。
この制度は、小泉政権下、高齢化→医療費の増大→保険財政の危機→高齢者の負担増という単純な発想の下、「医療費の抑制」を「目的」として、ひねりだされたものだ。
しばしば「現役世代VS高齢者」の対立図式で煽る人もいるが、制度の発足後、現役世代の負担は逆に増えている。たとえば西濃運輸健康保険組合は、負担金の増大で解散。中小企業向けの政府管掌健康保険に移った。一方、この制度で低所得層が苦しむのとは裏腹に、国の公益法人の理事といった「天下り」の高齢高所得者の負担は軽くなっている。
小泉内閣の「功と罪」は、しっかり見極めねばなるまい。
本書は、そのような不公平でアンバランスな制度を丁寧に読み解いた好著。しくみの根拠法「高齢者の医療の確保に関する法律」(高齢者医療法)が成立するまでのいいかげんさ、低所得者ほど重い負担、将来に回るツケ、著者の代案……などが記されている。
現役世代に読んでもらいたい本だ。文章がややカタく、導入部分の制度解説は読み進めるのに骨が折れる。が、後期高齢者医療に象徴される「医療費の抑制」方針が、いかに医療崩壊を招いているかを知るうえでも、格好のテキストである。
悪評ふんぷんの「メタボ健診(特定健診・特定保健指導)」も、後期高齢者医療の発足と深く係わっており、大きな問題をはらんでいる。
メタボ健診は、高齢者医療法に基づいて、今年から始まった。従来の老人保健制度が廃止され、40歳以上の全国民を対象とする基本健診に終止符。メタボ健診に切り替えられたのだ。なぜ、後期高齢者医療とメタボ健診が同じ法律でリンクするのか?
それは、高齢者医療法が第一条で「医療費の適正化(=抑制 ※山岡注)を推進するため」と掲げているからだ。どちらの制度も「医療費の抑制」のもとに設けられたのである。
メタボ健診は、糖尿病などの予防につながり、結果的に医療費が抑えられる、との理屈で採りいれられた。だが、狙いは別のところにありそうだ。
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