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ER型救急は「ペペロンチーノ」(下)

 定義や機能を不明確にしたまま、モデル事業を実施するとの中間取りまとめ(案)が大筋で了承された、7月17日の「救急医療の今後のあり方に関する検討会」(座長=島崎修次・日本救急医療財団理事長)。検討会では、救急医療に総合診療科の話が絡み、迷走を極めた。ER型救急の定義や役割など、肝心な中身の議論を欠いたまま、モデル事業を実施の方向に落とし込もうとしているようにも見える座長と委員、そして事務局の厚労省。果たして、国民の声を反映した議論をしていると言えるのだろうか。(熊田梨恵)

http://www.cabrain.net/news/article/newsId/17320.html

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■混乱の揚げ句に「モデル事業賛成」

 さらに石井委員が畳み掛ける。「もう一つ追加する。日医が『グランドデザイン2007』を出した時は『日本型ER』という言い方をしていて、『米国の定義には合わないが、どちらかというとそっち傾向』という言い方で書いている。その定義もあいまいで、まだそういう(あいまいな)状況じゃないのか。『ER型医師が要るのか』とか、そういう議論から始まると、各地域で(そもそも)いろんな救急の形がある。それをどう次のバージョンに持っていくかという時に、最後に書いているこの『モデル事業』という書き込み方は全く賛成。その中で明確化していくということでどうか。もちろんモデル事業としてやる場合に、(費用は)どこかの医療機関の持ち出しではなく、国策としてやっていただけると期待している」

 ER型の定義を明確にせず、モデル事業を実施しながら明確化するのがよいと明言した。

 さらに、前川剛志委員(山口大学医学部長)が、「石井委員に賛成」と声を上げた。「英国で総合診療医に診てもらったが、朝に行って、最終的に診てもらったのは夕方。どういう(総合医の)指針がいいかは難しい。日本の今までやってきた救急体制は、非常にいい形ができている。夜も診る。専門領域を持ちながら、ある年齢になったら勤務医から開業医に変わる。その人たちが総合診療医のようなことをやっていた。当初(国内で)ずっとやってきた制度的なものは諸外国から見て非常に形がいい。米国の医療が良いと言うが非常に高い生命保険に入っている。テレビで見るようなシステムがあるわけではない。もっとしっかり考えていく必要がある」と指摘した。

 中身に関する議論を欠いたまま、島崎座長は、「『日本型ER』と石井委員も言ったが、モデル事業もこの形一つではなく、それなりの自由度を持ち、いくつかのタイプを考えていただくとありがたい」とモデル事業を実施する方向でまとめ始め、「これに関してはこれでいいか」と、ER型救急についての議論を閉めようとした。

 そこで豊田一則委員(国立循環器病センター内科脳血管部門医長)から、ER型救急の課題について、「ERからその後の入院を受け持つ医師への引き継ぎに時間がかかる」と記載されていることについて、「脳卒中や急性冠症候群など、本来は急いで診療しなければいけない疾患が、引き継ぎに時間がかかった場合に、患者が不利益を被ることを挙げてほしい。脳卒中に関しては『脳卒中病院前救護(PSLS)』の講習が全国で始まっている。ER型救急の医療機関を進めていくと同時に、病院前救護も進展させて、循環器の救急対応ができる施設が(ER型救急と)併存できる形もあり得ると書いてほしい」と要望が上がった。

 ER型救急についての議論は10分程度しかなされず、会議は粛々と次の項目に進んだ。


■「すごくよくまとまっている」

 検討会の最後、山本委員が中間取りまとめ(案)について、「全体としてすごくよくまとまっている。非常に頑張ったと思う」と事務局を激励した。

 島崎座長も、「なんとなく国民医療の中でのERというのが(漠然としていて)、三次の救命センターはそれなりに位置付けがはっきりしているが、二次と一次にかかわるERの今後の問題は、モデル事業の形(での解決)がいいのではないか。いろいろな形で解決していかないと、救急医療全般に関する国民の不満は解消しないと思う。その意味ではよくまとまっている。次のステップに行ける報告書になっている」と述べ、中間取りまとめ(案)の内容を、現在の救急医療の現場に役立つ報告書であるとの見方を示した。

 こうして会議は終了した。

 突然出てきたER型救急のモデル事業実施に対する、具体的な意見は、坂本委員からの定義の明確化に対する要望と、豊田委員からの脳卒中病院前救護に関する要望のみだった。それ以降の議論は、山本委員が「総合診療科」の話を持ち込んだために論点がずれて混乱し、座長の仕切りもあらぬ方向に進ませてしまった。

 肝心なER型救急の定義などの議論はないまま、「モデル事業を実施する」との意見に押し切られた形で会議は終わった。

 事務局は、次回の30日に中間取りまとめの最終案を検討会に提出し、そこで合意が得られれば中間報告としてまとめられる形になる。


■素材の分からぬ「ペペロンチーノ」

 会議終了後、定義が不明確なままモデル事業を実施するという形で議論がまとまったことについて、三浦課長はキャリアブレインに対し、「スパゲティには色々あり、何を持ってスパゲティと言うかがある。 今回は『ペペロンチーノを作りましょう』ということだ」と、ER型救急の定義をあいまいにしたまま、形だけを進めようとしているモデル事業の実施を例えて見せた。


■「現場は相手にしない」

 昭和大学病院の有賀徹副院長に、この検討会について聞いた。

 三浦課長のペペロンチーノ発言については、「こちらは医療のプロだ。スパゲ何とかについては、医師は(モデル事業の)『素材』が何でできているのかは分かる。モデル事業が始まっても相手にしないだろうから、うまくいかないだろう。予算取りのための方便だ。目くらましで『モデル事業』として始めたとしても、現場の医師は相手にしない」と一蹴。定義がはっきりしないまま箱物だけで始めても、意味をなさないと指摘した。

 有賀氏は今回の検討会でER型救急のモデル事業実施が、突然出てきたことについて、「もともとはこの検討会の議題になる予定ではなかったと聞いている。委員の中でダッチロールが起きて、こういうことになったのだろう」と述べ、事務局や委員内でもすり合わせがうまくいかないまま、予算取りのためにモデル事業が出てきたとの見方を示した。


■ERは「教育の場」

 ER型救急について有賀氏は、「これは救急医療体制の崩壊について、どうこうできるという話とは次元が全く違う。ER型救急は、医療費が潤沢にある場合に、研修医が救急医としてプライマリーケアを訓練する場合には良い。学会などと連携すれば面白いプログラムもできるだろう」と述べ、ER型救急は教育の場であるとの見方を示した。

 今回のモデル事業実施が、受け入れ不能などで混乱する救急医療の現状について、国民の不満を解消する手立てになるとの見方を示した島崎座長とは全く違う意見だ。

 その上で、「やるならば、ER型救急の定義と機能を明確にしなければならない。都会と田舎でも機能は違ってくるだろうし、ERには北米型やヨーロッパ型などいろいろある」と述べた。


                       ■   ■   ■


 今回の検討会で、厚労省は突然にER型救急のモデル事業実施を提案してきた。有賀氏が話すように、予算取りのための仕掛けであり、前佐藤課長の宿題を、三浦課長が引き継いだ形で後始末をさせられているとの見方もできる。

 しかし、次回に中間取りまとめの最終案が了承されれば、国民の税金からなる予算が付けられ、一部でER型救急のモデル事業が実施される可能性は極めて高い。しかし、機能と役割が不明確なまま、疲弊する今の救急医療現場で実施されたとしても、混乱を引き起こすだけではないだろうか。迷惑を被るのは現場の医療者であり、被害者は患者ではないのか。

 事務局が描く「すごろく」通りに進行し、上滑りの議論が行われる検討会の在り方はどうなのだろうか。検討会の担当者が次々と異動してしまう同省のシステムを問題視する指摘も多い。検討会でER型救急に関するヒアリング実施した際、現場の医師から「普及は困難」との見方が示されていた。これにもかかわらず、モデル事業実施を盛り込んでくる厚労省の体制は、国民と医療者の声が、全く反映されていないということではないのだろうか。






更新:2008/07/24 19:28   キャリアブレイン

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