老人医療の現状と新高齢者医療制度(04年9月)
1.老人医療の現状
http://homepage3.nifty.com/civilsocietyforum/page040.html
(1)申請により1割負担
『所得判定の結果、あなたは、8月1日から医療費負担が2割となります。ただし、収入が単
身450万円・世帯637万円以下であれば、申請により1割負担とすることができます。確定申
告書の写しなどを持って、申請におこしください』という文書を送ったことにより、市区町村の老
人医療窓口では、高齢者との困難な対応・受付がつづいています。
6月1日に住民税が確定し、それを基準にして所得判定を行ない、低Ⅰ・低Ⅱ・一般・一定以
上という区分で、8月1日から適用することになっているのです。所得による負担区分判定は、
この事務処理で終了のはずですが、実際には、先の文書などを送り、難儀な聞き取りをして申
請を受けています。
(2)老人医療を年齢で3区分
このことを理解していただくためには、老人医療の現状を説明しなければならないと思いま
す。一口に「老人医療」といっても、年齢により三つの制度に分かれ、負担率や限度額など基
本的には同じですが、適用の法や条例が異なることとなりました。
2002年10月から老人保健法が改悪され、老健法の該当は75歳からとされました。そし
て、定率1割負担のほかに一定以上所得者に2割負担が導入されました。
70歳から74歳までは、健康保険法の該当となり、前期高齢者という名がつけられ、加入して
いる健康保険から「高齢受給者証」が交付されることとなりました。負担率や限度額などは、老
健法該当者と同様の扱いとなりますが、その費用負担は加入している健康保険が、受け持つ
ことにとなりました。(経過措置で昭和7年10月1日生まれ以降が該当)
また、自治体の条例で運用している65歳から69歳の老人医療費助成も、法改悪の影響を
受けています。負担率や限度額などを老健法と同じとするだけではなく、このような改悪の流
れの中で所得制限の強化(住民税非課税者のみ適用)から、さらに、いくつかの自治体では制
度の廃止にまで踏み込んできています。
(3)2割負担とその所得判定
2割負担と判定されるのは、課税標準総所得124万円以上ですが、健康保険組合や政府管
掌健保は、所得判定をするための税情報を持っていません。そこで、70歳から74歳の前期
高齢者は、健康保険の基準である標準報酬月額を使用し、月額28万円以上を「一定以上所
得者・2割負担」とすることにしました。
ここで冒頭の「申請1割」に、話はふり戻ります。
標準報酬月額28万円を収入に置き換えると450万円程度となります。課税標準総所得が12
4万円以上であっても、収入が450万円以下というケースがあり得ること、また、課税標準総
所得124万円を世帯収入に換算すると637万円程度になるということから、制度間の整合
性、所得判定の整合性を保つために、収入額が単身450万円・世帯637万円以下の場合
は、申請により1割負担とすることになりました。現在このような手続きが進められているので
す。
(4)所得の比較や判定は、一般的には総所得を使っている
税情報を持っているはずの市区町村が、確定申告書の写しなどを持参させて、申請を受付
している理由は、税情報では「総所得」や「合計所得」、そこからの控除額、「課税標準総所得」
は把握していますが、「収入」は把握できていないことがあるからです。
一般的に所得の比較や判定には、総所得が使われてきました。それを、課税標準総所得を
使うこと、税情報を持っていない健康保険に、負担区分を決めるために所得判定をさせるこ
と、所得判定の整合性を保つために収入で補正することなど、難解極まりないものとなってい
ます。しかし、これでも十分ではなく、さまざまな逆転現象がおこり、実務担当者は困っていま
す。その説明は、さらに煩雑になるので省略します。
こうしたことが起こるのは、言うまでもなく、老人医療制度を改悪し1割2割の負担を持ち込
み、とりわけ、一定以上所得世帯に2割負担を押しつけたからです。
(5)現場の苦労をよそに、さらなる制度改悪が
難解な老人医療制度の現況説明にお付き合いいただきましたが、これを高齢者に説明する
市区町村職員、健康保険の担当職員の困難は、想像に難くないと思います。
このような苦労を現場ではしているわけですが、しかし、この制度がこれで維持されるのでは
なく、さらなる制度の変更・改悪が準備されているのです。
1983年に老人保健法を導入し、老人医療「無料」制度をつぶし、90年代には一部負担金
を引き上げ、2000年代においては1~2割の定率負担を押しつけ、老人医療制度を大きく後
退させてきました。この老健法20年を通じて老人医療制度改悪が一巡したことをふまえ、新た
な高齢者医療保険制度を創設し、さらなる改悪を進めようとしているのです。
2.新高齢者医療制度
(1)新たな高齢者医療制度の創設
2003年3月28日、政府は「健康保健法等の一部を改正する法律付則第2条第2項の規定
に基づく基本方針」を閣議決定しました。この基本方針は(1)保険者の統合及び再編を含む
医療保険制度の体系の在り方、(2)新しい高齢者医療制度の創設、(3)診療報酬の体系の
見直し、この3点について、基本的考え方が示されています。そして、閣議決定されたこの基本
方針に基づいて、現在、社会保障審議会医療保険部会などで、審議が進められているので
す。
02年の医療制度改革関連法での改悪に止まらず、さらなる制度改悪を、年限を付けて取り
まとめることが、付則で規定されているのです。
この基本方針をふまえて、審議会の部会が会合を重ねていますが、とりわけ注目しなければ
ならないのが、最近の第5回、6回、7回と部会で審議・議論されてきている高齢者医療制度の
方向です。
新しい高齢者医療制度の創設とは、『65歳から74歳までの前期高齢者、75歳以上の後期高
齢者と、二つのグループに分け、それぞれの特性に応じた新制度を創設することにより、現行
の老人保健法・退職者医療制度を廃止する』としています。
(2)後期高齢者だけの独立した健康保険
新たな高齢者医療制度の創設に当って、後期高齢者については『(1)生理的能力が低下し
ていることに起因する医療・受療行為の特性を考慮し、国民皆保険の枠組みを堅持しつつも、
後期高齢者をそれ以外の集団と分けた上で、後期高齢者に相応しい負担の仕組みを採るとと
もに、(2)給付面においても、地域において医療サービスを介護サービスと連携して提供する
ことにより生活の質(QOL)の向上を図ることが必要であることに着目して、独立した保険制度
とする』として、審議が重ねられています。
その審議のなかで、『75歳をこえた後期高齢者の生理特性の変化』『高齢者に相応しいQO
L(生活の質)が確保されるべき』等の発言、そして、『医療の適正化』『医療費の適正化』の発
言が相次いでいます。
要するに、後期高齢者の医療については、その生理特性の変化を理由に、医療・医療費を
抑制することが議論されているのです。
そうした議論に対して、唯一、日本医師会からの委員が、「『お年を取った方は、もうこの医療
でいいのだ』というような決め方をされますと、その方の将来受けるべき権利を剥奪することに
なりかねません。そういう面から考えますと、はたして75歳のところで、『昨日までは74歳でよ
かったですね。今日から75歳ですから、あなたの医療を受ける権利は制約されます』という制
度をつくることが、本当に国民にとって安心してくらせる制度なのかどうか。」と、批判的な発言
があるという状況です。
(3)後期高齢者に保険料負担を強要
その高齢者だけの健康保険制度は、加入者の保険料、国保および被用者保険からの支
援、公費により賄うとされています。その負担割合などは、公費負担割合を5割にすること以
外、具体的には明らかにされていません。
独立した健康保険制度とされているものの、国保および被用者保険からの支援(社会連帯的
な保険料)、公費により賄うとしていることからも、決して自立した制度とはいえないものであり、
さらに加入者である75歳以上の後期高齢者から、保険料を徴収するという大きな問題を含ん
でいます。
後期高齢者に負担を強要する、その保険料や徴収方法などは、介護保険と同様のものとな
ることが予測されます。すなわち、制度の発足当初は、低く保険料が設定されたとしても、赤字
を理由にその引き上げが続くことや、保険料の徴収は年金からの天引きが予想されることな
どから、介護保険の抱えるさまざまな問題と、同じ問題を抱えての出発となります。
(4)被扶養者の前期高齢者にも保険料負担が
前期高齢者は、『現在と同様に国保または被用者保険に加入することとし、各制度間の前期
高齢者の偏在による医療費負担の不均衡を調整し、制度の安定性と公平性を確保する』とし
ています。
これは、現行の老人保健法・退職者医療制度のその大義名分はそれとして、高齢者の加入割
合の大きい国保の財政支援を、健保組合などの被用者保険から拠出させ、負担を強要してい
ることを、今後は正々堂々と正面からその負担を求めることを意味します。
すなわち、前期高齢者の加入人数の多い国保の財政支援を、若い加入者の多い健保組合
などから、医療費負担の不均衡調整という名で、大きな負担を求めるということなのです。基本
方針やその審議の中では、まったく触れられてはいませんが、このことの真のねらいは、国が
負担すべき国保への財政負担を、削減するためであることは、20年の歴史のなかで明らかに
なっています。
さらに大きな問題としては、そうした財政負担や支援を若年世代から受けること、後期高齢
者が保険料負担をすることなどを理由に、健康保険の被扶養者(保険料負担の対象ではな
い)であっても、その前期高齢者から保険料を徴収するとしていることです。
審議会の部会における、新高齢者医療制度の議論の一部を紹介しましたが、保険者の再
編・統合及び医療保険制度の一元化などについても審議されています。
その他の社会保障審議会の部会についても同様ですが、憲法25条に規定されている国民
の生存権を否定するような、社会保障制度の改悪が議論されています。
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