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【正論】新渡戸文化学園短期大学学長・中原英臣 高齢者と現役の共生こそ重要

 ≪新制度の2つの顔≫

http://sankei.jp.msn.com/life/welfare/080528/wlf0805280213000-n1.htm

 この4月から75歳以上の方を対象とする後期高齢者医療制度がスタートした。高齢者の医療費を支える現役世代の負担が青天井で増えるしかなかったこれまでの老人保健制度と違い、新制度では75歳以上の方にかかる医療費の1割を75歳以上の方にも負担してもらった上で、残りの4割を現役世代、5割を公費で負担することで、現役世代の負担を明確にした。高齢化社会が急速に進み、高齢者のかかる医療費が増加していくという現実を考えると、新制度の考え方は基本的には間違っていない。

 ところが、スタート初日から名称が「長寿医療制度」に変わったり、保険証が届かないといった混乱が起きた。15日からは年金からの天引きが始まり混乱はさらに広がった。新制度は2006年6月に医療制度改革関連法が強行採決で成立した時から、2008年4月からの実施が決まっていたことを考えると、国民に周知してこなかった政府の責任はあまりに重い。

 今回の新制度には2つの顔がある。1つは財政再建の旗印のもとで進めてきた医療費抑制策という顔であり、もう1つは世界に誇る国民皆保険を維持するための苦肉の策という顔である。

 前者の視点に立つと、高齢者福祉も大切だが子孫につけを回すなということになるし、後者の立場からみると、どうして病気が増えて当然の75歳以上の高齢者を「後期高齢者」として線引きするのかということになる。

 ≪被扶養者に新たな負担≫

 こうした視点に立つ限り、この国の医療制度は高齢者と現役世代の対立の場になるしかない。高齢者と現役世代の対立は医療制度だけではない。年金問題も介護制度も高齢者と現役世代の対立の場となりつつある。75歳以上の方の多くは新制度で保険料が年金から天引きされることに納得していないようだが、その年金も現役世代が負担しているわけである。

 国民の対立軸を調整するのが政治の役割であるのなら、政府は本気で高齢者と現役世代が共生できる医療制度を構築するべきである。

 新制度では10月から約200万人の75歳以上の方に新たな負担が生じることが決まっている。その対象になるのは、現在、子供の扶養家族になっている75歳以上の方である。子供に扶養されている75歳以上の方は、これまでは国民健康保険に入らなくても、子供が加入している健康保険組合が医療費をカバーするから、保険料を負担しなくてもよかった。

 ところが、新制度が導入されたために、10月から2009年3月までは1割、同年4月から2010年3月までは5割、同年4月からは10割と、段階的に保険料が年金から天引きされることになる。この4月に新制度に移行したのは、これまで国民健康保険に加入していた75歳以上の方だから、保険料の負担が軽くなった方も少なくなかったが、子供の扶養家族になっている75歳以上の方の場合、全員が新たに保険料を負担することになる。

 しかも、夫婦ともに75歳以上の場合、夫と妻が別々に年金から保険料が天引きされるし、夫が75歳以上で妻が75歳未満の夫婦の場合、夫が新制度に移行するため妻は新たに国民保険に入らなくてはならなくなるから、夫婦でみると負担が増えることになる。このように、子供が両親を扶養している場合、3人がそれぞれの保険料を徴収される可能性さえある。

 ≪家族の存立も危うく≫

 さらに、国民保険に入っている75歳以上の親と同居している子供が親の保険料を払ってあげている場合、これまでは確定申告する際に親の保険料を所得から控除することができたが、新制度のもとでは控除対象とならなくなる。これでは高齢者と現役世代の共生どころか、家族という親と子供で構成されている高齢者と現役世代の共生さえ否定することになる。今回の新制度は家族の存立を危うくするだけでなく、家族の崩壊をもたらす可能性さえ秘めているといわざるを得ない。

 確かに、この国の未来を考えると、財政再建は極めて重要な課題であることは間違いない。しかし、その財政再建のために国民の生命と健康を守るうえで必要な医療費を削減し続けていくのもそろそろ限界にきているようにみえる。福田総理は道路特定財源の一部を高齢者医療に充てることに言及したが、もし道路特定財源の1割でも医療費にまわすことができたら、財政再建と国民皆保険の維持という2つの顔を立てた上で、今回の新制度を見直すことができると思われる。政府に期待したいことは、高齢者と現役世代が納得できる新制度の見直しである。(なかはら ひでおみ)

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