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緊急論考「小さな政府」が亡ぼす日本の医療

本シリーズをここまで読まれてきた方には,もう私の結論はおわかりだろうが,日本の医療を本当に持続可能なものとしたいのであれば,百害あって一利もない「小さな政府」路線と訣別する以外に道はないのである。

http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA02781_04

応益負担でなく,応能負担を

 これまで何度も述べてきたように,西欧諸国の実例を見る限り,「大きな政府」にしたからといって,自動的に国民の負担が重くなるわけではない。国民の負担を重くせずに「大きな政府」を運営する秘訣は「応能負担」の原則を徹底することにあるのだが,「持てる者・余裕のある者が社会のために多くを負担する」という,ごく当たり前の原則に徹しさえすれば,平均的国民が重税に喘ぐことなく,財源を手当てすることが可能となる(註1)。

 しかし,非常に情けないことに,いまの日本では,「自己責任(=応益負担)」ばかりが声高に唱えられ,「余裕のある方に相応の負担をしていただく」という,応能負担のやり方があることがすっかり忘れられてしまっている。しかも,ただ忘れられているだけでなく,「相応の負担」を拒否する人々に政策決定の権限を与え,「(自分たちが相応の負担をしなくとも)持続可能な社会保障制度」を構築することを許してきたのだから,国民が「幸福」と感じることができない国になってしまったのも当然だろう。

幸福度世界第88位!?

 日本の国民が幸福と感じていないと書いたが,英国レスター大学が世界各国における「主観的幸福度」調査(註2)の結果を発表,当地で話題になったのは昨年のことだった。話題になった理由は,「幸福の追求(pursuit of happiness)」を独立宣言で謳った歴史があるというのに,幸福度世界第16位とランクされ,「ランクが低すぎる」と米国民がショックを受けたことにあったのだが,この調査によると,日本は幸福度世界第88位,「ランクが低すぎる」とショックを受けた米国よりもはるかに悪い評価だったのである。ちなみに,幸福度ランキング世界第1位はデンマークだったが,同国の国民負担率72.5%(2004年)は,OECD加盟国中(そして恐らくは世界)第1位,「大きな政府にすると,国民は重税に喘ぎ不幸になる」とする主張が,いかに根拠のない「デマ」であるかは,この例からも明らかだろう(註3)。

「緊急」と銘打った理由

 8回にわたって,「小さな政府」論に基づく医療費抑制政策がどれほど愚かで欺瞞に満ちたものであるかを論考した。「小さな政府」を続ける限り日本の医療が亡びる運命から逃れることができないのは明らかなのだが,私が今回の論考に「緊急」と銘打った理由は,いま,ほとんどの医療者が「確実に医療崩壊が始まっている」と厳しく認識している(しかも,彼らは,「このままでは自分の体が持たない」と,医療崩壊の危機を「体感」として認識しているのだ)にもかかわらず,為政者たちが現状に対する危機感を共有しているとは思えないからである。

 例えば,現状の危機に対し,厚労省は,相も変わらず「医療費抑制」を優先,何ら実効性がある対策を打ち出せずにいる。打ち出せないどころか,大は後期高齢者医療制度・特定健診制度の創設に始まって,小は「5分間ルール」の導入まで,医療現場にさらなる混乱をもたらし,崩壊を加速するようなことばかりしているのだから呆れざるを得ない。

「大タワケ」か「邪悪な意図の持ち主」

 一方,福田首相の肝煎りで発足した社会保障国民会議の座長にいたっては「今後の医療費の増加分は民間保険などでまかない,公的保険の適用対象を大きくは広げない意向を示唆,……持続可能な制度にする必要があるとの認識を示した」とされ(2008年2月26日毎日新聞より),皆保険制を取り崩して米国型の「無保険・低保険」社会実現への道を開こうとしているのだから何をかいわんやである。

 あえて厳しい言葉を使う。もし,テレビや街頭で,「国民負担率を低く保つためには医療費を抑制しなければならない。公的負担は限界に達しているから持続可能な制度とするためには保険外診療を拡大しなければならない」などとしたり顔で主張する政治家を見かけたら,「何も知らない大タワケ」か「国民をたぶらかそうとする邪悪な意図の持ち主」のどちらか(あるいはその両方)なのだから,そんな政治家には,間違っても票を入れてはならないのである。

(この項おわり)

註1:例えば,第122回で,米国ではどんなに所得が低い人でも,日本の国保と同等の民間保険を購入しようと思ったら年額約240万円の保険料を負担しなければならないことを紹介したが,日本の場合,所得が10億を超えるような大金持ちでも,国保保険料の負担は上限額の年60万円強で済んでいる。応能負担の原則を適用する余地は大きく残っているのである。

註2:White, A. A Global Projection of Subjective Well-being: A Challenge To Positive Psychology? Psychtalk 56, 17-20(2007)

註3:レスター大学の幸福度調査を報道した当地のテレビ番組で,デンマークの若者が「税金は少し高いけれども,医療費も大学の授業料も無料だし,有給休暇も最低年5週。何も不満はない」と証言していたが,「大きな政府」の西欧諸国ではこれが「当たり前」なのである。

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