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TOP >  医師不足で医療崩壊

救急告示病院、都市部でも減少<解説>

▽システム効率化が急務

 中国地方で今、医師不足を背景に救急告示病院が減り続けている。都市部でも減少が目立ち始めたのが新たな傾向である。救急医療の危機は今や、人口や病院の絶対数が少ない中山間地や島しょ部だけでなく、人口が密集する都市部へと広がっているといえる。医師増員こそ抜本的な解消策だが、当面はより効率的なシステムづくりと、患者自身が受診の在り方を見直すことで乗り切るしかなさそうだ。(編集委員・山本浩司)

http://www.chugoku-np.co.jp/Health/An200805040281.html

▽医師不足の解消は遠く 広島県内30年ぶり減

 広島市消防局(中区)の通信指令室。電話の向こうの通報者に患者の容体を尋ねる緊迫した声が響く。一日午前八時半からの二十四時間で、着信した一一九番は百八十七件。うち百十七件が救急だった。

病院まで26分

 二日午前一時すぎに起きた交通事故。現場に到着した救急隊員は、医療施設と直接交渉を始めた。満床や医師の多忙などを理由に、なかなか受け入れ先が決まらない。携帯電話からの一斉通報で受け入れ可能施設を探すシステムを含め九件目の問い合わせで、ようやく決定。被害に遭った八十代男性が現場を出発したのは、到着から一時間十八分後だった。

 市消防局の調べでは、一九九六年には救急車が出動して現場到着までの平均所要時間は三分五十四秒、出動から病院到着までは平均二十分二十四秒だった。十年後の二〇〇六年、現場到着までは四分三十秒と三十六秒増加。病院到着は二十六分と五分三十六秒も余計にかかるようになった。搬送先が決まるまで、より多くの時間がかかるようになったからだ。

 その原因の一つが救急告示病院・診療所の減少である。広島県では〇三年からの五年間で百七十六から百五十三へと二十三施設(13%)減った。中国五県でも最悪のペース。その45%、十施設が〇七年度に集中している。病院・診療所それぞれ一施設の新規申し出があったため、実際に撤退したのは病院七、診療所五の計十二施設である。

 撤退した病院・診療所を地域別でみると、興味深い傾向が浮かび上がる。尾道、呉、江田島、三次、庄原、安芸高田の六市の一つずつに対し、福山市二、さらに広島市四と人口が密集する都市部でも減少が目立っているのである。

 救急告示病院は、医師や施設が完備し、救急隊からの患者収容可否の問い合わせに応対できる病院との位置づけだ。「減少は、病院への搬送時間増加につながっている」と広島市消防局の藤原健悟救急担当部長は実感している。

 救急告示病院からの撤退の主な理由は、やはり医師不足である。医療の専門化が進むなどして医師の増員が必要なのに、増え方は鈍く、人口当たりの医師数は先進国で最低水準にあるわが国。その中でも、広島県では医師が減るというショッキングなデータが今年二月に明らかになった。

 厚生労働省が二年に一度まとめる都道府県別の医師数。〇六年調査で、全国では前回(〇四年)より七千五百五十六人増えたが、広島県は八十一人減少した。前回より減ったのは、三十年ぶりのことだ。医師数が減ったのは広島を含む六県で、うち五県が中四国地方である。

新研修制響く

 背景には、〇四年度からスタートした新臨床研修制度がある。卒業後二年間の初期研修先が自由に選べるようになった新人医師は、大都市の病院に集中。あおりを受けた大学病院で医師が不足する事態に陥り、各地の病院に派遣していた医師を呼び戻した。医師は絶対数の不足に加え、偏在が目立ち始め、その影響を地方がもろにかぶっているわけだ。

 医師不足に加え、医療現場を取り巻く環境の変化も救急医療全体に暗い影を落とす。具体的には、最近よく耳にするようになった「コンビニ受診(安易な救急医療機関の利用)」、「モンスターペイシェント(自己中心的な患者)」、さらに医療訴訟の増加である。

 夜間診療窓口は、軽症患者が押し寄せて昼間より混雑する。自分の見立てと違う診断を下されると納得せずに文句を言い続ける患者、酒に酔って医師・看護師に暴言を吐き、挙げ句は暴力を振るう患者…。

 広島市医師会の長崎孝太郎副会長は「医師はいま、どれだけ強い使命感と倫理観があっても、患者を助けたいという気持ちを萎縮(いしゅく)させられるような環境に置かれている」と危機感を募らせる。「救急告示病院の数の問題より、むしろ医師がこうした状況にある方が大きな問題」とまで言うのである。

▽現場負担減へ初期窓口 来年3月に広島市設置

 医師を今から増員しようとしてもあと十年近くかかる。危機にある救急医療をなんとか「延命」させるには、現場医師の心身の負担の軽減が必要だろう。それに向け、広島市である取り組みが進められている。来年三月下旬の開設を目指す夜間急病診療所(仮称)である。

 広島市中区千田町に市が建物や医療機器を設置。市医師会が医師を派遣し、内科の患者を受け入れる。「こうした窓口の設置は他の自治体では常識で、広島は遅い」(医療関係者)というものの、効果を期待されている。

 まず、どの窓口に行ったらよいのか判断に悩む患者を受け入れることで、二次、三次救急病院医師の負担を軽減。より高度な診療が必要な患者の受診機会を増やす。患者も、医師の診断を受けている分、転送された二次救急施設ですぐに必要な治療を受けられる。

 十分な救急医療体制の維持には、患者自らが救急医療の実態を認識し、受診の仕方を改めることも必要だろう。症状の過小評価は危険だが、何が何でも救急車で大きな病院にという傾向に歯止めをかけたい。相談できる「かかりつけ医」を持ち、可能な限り昼間に受診する人が増えれば、事態はある程度、改善に向かうだろう。

 救急車で搬送後、病院で軽症と判断された数は〇六年は九六年の一・八倍、二万八百十四人。全体(四万三千三百三十三件)の48%にも上る。「救急隊員が担うのは患者の観察と応急処置。診断は医師にしかできず、軽症だからタクシーでとは言えない」と広島市消防局の藤原部長。二日未明、現場で一時間以上待機したお年寄りも、結果的に病院で軽症と診断された。

 診療機会の減少と相反する診療要求の増加。これを放置すれば、重症患者が対象の三次救急への軽症患者の流入と、能力を超える救急車の出動要請で近い将来、救急医療体制は一挙に崩壊するだろう。

 ●クリック 救急医療システム 患者の重症度により初期(軽症・外来治療)、二次(中症等・入院治療)、三次(重症・集中治療)の三段階を取る。二次救急では、満床などによる搬送拒否を防ぐため、病院で担当日を決める病院群輪番制を採用している。現在数を減らしているのは二次救急である。

【写真説明】広島市消防局の通信指令室。救急車や消防車の状態が表示され、迅速な出動を支える(広島市中区)

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