生産性の低い日本の医療。超高齢社会に向けて「医療崩壊」は必然である
あっさり離職する若手医師たち
いま、日本では「医療崩壊」「病院崩壊」という言葉が医療業界から染み出してマスコミを騒がせている。
http://www.bitway.ne.jp/bunshun/ronten/ocn/sample/ron/08/065/r08065BNB1.html
一般の患者や国民にとっては、子供の救急室の閉鎖や緊急のお産のたらい回し事件などで、医療界に重大なことが起きていると感じられても、崩壊という語感を肌で感じるわけではないかもしれない。しかし医療界では、特に病院医の間で迫り来る脅威として語られ始めた感がある。二〇〇六年(平成一八年)医療界の流行語大賞ともなった「立ち去り型サボタージュ」、つまり若年の働き盛りの医師が突然離職して開業し、その負担が他の医師にのしかかって離職の悪連鎖を生み、診療科ごとに医師が消え、機能が停止、診療科が歯抜けとなり、最後に病院を閉じなければならない現象が始まりつつあるからだ。加えて、〇六年改定された健康保険法、医療法により大幅な医療制度の改革が、突然走り出した。予想される急激な変化への漠然とした不安も一因となっている。
この直接のきっかけは、〇四年に新しく始められた医学部卒業後の研修医の制度である。全国公募制度を採ったので、これまで卒業大学に残って研修していた新卒の医師が東京、京都、大阪、福岡の大都市に集中したのである。地方の病院の医師の供給元であった地方大学は人手不足となり、逆に供給先から医師を引き上げた。特に郡部の公立病院にその被害が大きい。一九七〇年代、各県の需要を満たすため一県一医科大学として新設された大学も、その多くが医師供給機能を停止したのである。
ここ一〇年にわたって「平均在院日数が短縮」し、「在院患者が重症化」して「医師や看護師の負担が増加」した。そして、この一〇年間こそ、横浜市立大学の患者取り違え事故を皮切りに医療事故が問題となった時期でもあった。患者が医療の質と安全に関心を持ち始め、医師にはこれまで以上に診療の説明が求められることとなった。この間、保険関係の書類も増えている。
患者の平均在院日数が一〇年でほぼ半分にまで減っただけでなく、高齢者が増えて、医療スタッフの手間が増大した。医師も看護師もあまり増えていないので、病院によってはかつての二倍以上の負担がかかっていることになる。
一般に医師は、負担が重くても「聖職意識でがんばるものだ」という思いこみがあった。ところが若手医師は意外にあっさり離職してしまった。病院の管理者にとっても行政にとっても、「立ち去り型サボタージュ」は想定外だったのではなかろうか。確かに、家庭・趣味と仕事の重要度のバランスは世代によって変わってきている。
いや実はマスコミに登場する「優雅で金持ちの医師」「権力欲に満ち、権威を振りかざす医師」はごく一部の誇張で、低い年収でまじめに長時間の労働に耐えてきたのが大半であり、特に若手の公立病院医師の給与は驚くほど安い。仕事、雑用が増え、そのうえ訴訟のリスクにさらされるとなると、ハイリスク・ローリターンは紛れもない事実、職業観の変容とは関係なく、病院を辞めていくのは結構理にかなった判断なのかもしれない。
人手不足は理論的には一時的なもの
このように医療界の現状はかなり深刻で複雑である。はたして、「日本の医療は崩壊する」のであろうか。この問いに答えるには現象の背後にある要因を短期・中期・長期に分けて、層を重ねて検討してみる必要がある。
まず短期の要因であるが、人手不足のきっかけとなった二年間の新卒後臨床研修制度は、病院医一六万人の約一割に当たる労働力が突然労働市場から消えたのと同じ状況をもたらした。病院の労働力確保が厳しくなるのは当然である。だとすると、理論的には、全国で見ると、数年後には研修を終えた良質の労働力が市場に帰って来るので、不足の現象は短期的なものになる。
さらに、年間八〇〇〇人の医学生が卒業しているにもかかわらず、ここ五年間は働く医師数の増加は研修医を入れても数千人にとどまっているが、それは第二次世界大戦中に軍医として養成された三万~五万人の医師が引退する時期と重なったからと想定される。これも、数年で元に戻る可能性がある。
ただ、もともと弱いところだった地方の医師不足や産婦人科などの診療科の偏りは今度の打撃が致命的で、今後は3K職場といわれる外科系の医師がいなくなることが懸念される。
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