著者インタビュー『地域とともに産み・育み・看とる』を編著者の1人、牛渡君江さんに聞く
編・著:医療生協さいたま看護部
出版:コープ出版
※読者プレゼントいたします!
応募方法 牛渡君江(うしわた・きみえ)さんは医療生協さいたま本部の看護部長さんです。先月末、埼玉協同病院を訪ねて、お話を伺いました。
http://www.book.janjan.jp/0804/0804104639/1.php
―医療生協について知らない人も多いと思いますので、ご説明をお願いします。
牛渡:本の中にも「医療生協とは」ということで書いてありますが、出資に基づく形態を取っていて、『生活協同組合法』に基づいて設立されています。文字通り、地域の人々が主人公という形です。基本的には、出資をして自分自身の健康やくらしの問題についてみんなでどうしようかという中で、1つは医療機関を出資して作ってそこも利用するし、健康な時にもより健康にということをやっているのが医療生協です。
そういう意味では、本の中にも『協同の絆』という言葉が出てくると思うのですが、私たち(医療従事者)は同じように組合員で、勿論出資していますし、時には利用することもあるんですが、住民の方々はいわゆる専門家ではありませんので、医師や看護師を始めとした医療の専門家と協同しなくては医療を受けられない。健康づくりも、医師や看護師たちの力も借りながらする。私たちは専門家として当然、医療や看護のサービスを提供するという。そういう風に協同しながらよりよく生きるということを共に目指していくということですね。
組合員さんは自分の健康を主体者として、私たちは専門家として一緒に協同して作り上げていくというのが医療生協の健康づくりじゃないかなと私は思っています。出資している方々というのは、単なる受診者や受療者ではないということなんです。主体的に自分自身も健康づくりに取り組くみますし、例えば医療制度を自分が受けていくときに、また福祉を受けていくときに、自分たちの権利が狭められていくようなことに関してはきちんと声を上げていくというようなことで、単なる受身の存在ではないと。主体的に取り組むということをここ(本の中)に書いておきました。
医療生協さいたま看護師のイメージ写真(提供:牛渡さん)―具合が悪いときに診ていただくということはすぐに思い浮かぶことですが、「主体的に関わる」とは具体的にどういうことかと思っていました。今のお話を伺って良くわかりました。
牛渡:そうですね。ここを書こうかどうしようかと悩んだんですね。そういう価値観というのが本当に伝わるかなというのがありまして。でも、それを抜いてしまうと、何のためにこの本を発行するのかという趣旨が崩れてしまうということなんです。
私たち自身、医療を提供していて、どんどん医療崩壊ですとか地域医療崩壊、看護師不足で看護師が悲鳴を上げている問題だとか、いろんな危機的な状況を住民の方々に知っていただきたいなあと思ったんですね。ただ、そのことをとてもつらいことなんだという訴えではなくて、私たちが得意とするところの看護を知っていただく中で、こういう看護を受けたいなあという要求を住民の方々が主体者として持つこと。そして、単なる受療者ではなくそういう医療を受けるためには、医療費は増やさなくてはならないし、看護師も医師ももちろん増やさなくてはならない、患者の自己負担は減らさなくてはならないということを、医療従事者が言うのではなくて、本当の受け手であり主体である国民の方々にそのことを声を上げて言っていただきたいなあという思いがあって、そこも『協同の絆』という気持ちに込めたんですね。
今、国は「自宅で息を引き取りましょう」ということを進めて来ているんですね。この春からの診療報酬(私たちが医療を行う時の報酬)が入りますが、その中に自分の終末期をどうするかということを医師や看護師などと相談をし合って何らかの文書にした場合にはお金が入るというような仕組みができあがっているんですよ。これは、私たちの診療所などでも『終末期要望書』ということで、自分たちの運動として、自分自身の主体者としてはやってきていたんですよ。
それを根底から大反対ということではなくて、それが本当の意図とするところはどこなのかということを注視しなくてはならないということで、国の医療費抑制の大きな柱は、入院よりも在宅だと。在宅というのは家族看護ですよね。看護師や医師が居るわけでもないし。ご家族の方々やご本人の色んな苦労の中で成り立っているのが在宅医療なんで入院よりも安上がりなんですね。国の持ち出し部分が。そんなことも含めてどんどん在宅へ在宅へという形になっていくんですが、そこも含めて「医療が崩壊していかない」ということも考えていかなくてはならないんじゃないか。
何のために在宅なのかというところが、家族が看取るということで悔いなく看取っていくという問題であったり、地域が「看取る」ということを通して成長していくことであったり。そのために在宅はとても必要であると思うのですが、その目標は医療費抑制ではなく、その人らしく人生を全うするということだと思うんですね。そのことをこの本で理解していただければ、これだけ医療費抑制のことが社会的に問題になっている訳なので、繋げて考えていただけたらなあと思いました。
―この本を編集なさったのは、医療生協の中の看護部会のみなさんですが、本のタイトルにもなっている『地域とともに産み・育み・看とる』というスローガンについてお話しいただけますか。
牛渡:この中で、この言葉は理念ですと言い切っています。入院をしている期間というのは、人生の中でホンの瞬間じゃないかなあと思うんですね。で、圧倒的には入院していて「ほぼ良いでしょう」と言って帰りますが、まだ体力は追いついていなかったり、復帰するにはウォーミングアップが必要だったり。慢性疾患とか生活習慣病など一生付き合う病気も多いですよね。ガンなんかもそうだと思いますし、高血圧や糖尿病などもそうなんですが。ずっとお付き合いしなくてはならない病気のコントロールは、私たちがいくらこういう生活が必要ですよと言っても、医師がこういうことに気をつけてくださいねと言っても、結局は主体者である本人が、それを実行するかどうかなんですね。
そういう風に考えると、私たちは地域で暮らす方・生活する方をお手伝いする、入院期間中にお手伝いをする、または往診とか通院という形でお手伝いする。ご本人が地域の中で暮らしながら生活を営みながら自分の病気を良くしていったり悪化しないように維持させていったりという努力をしていくんだと思うんですね。そこに医療生協というのは、1人1人の健康づくりをお手伝いをするというか一緒に健康になろうよという組合員の組織がありますよね。
私たちが、埼玉協同病院の産婦人科の病棟を作ったときの理念というかテーマは、『地域が産み育てる』だったんですね。私たちが、産むことをお手伝いはできるんですが、産むことも育てることも地域が自分たちの役割として、自分たちの当然の営みとしてやっていくことを私たちはホンの瞬間お手伝いをする。この本を作るときにもそういう話し合いがありまして、院内助産院(助産所)を病院の中に作ったらどうだろうかという発想のところが本にも少し出てくるんですが、「助産所って何だろう」ということも論議してみたんです。その時に、病院というのは1つの壁・建物があって、そこには私たちが管理し易いように患者さんが寝ていて、決められた時間に私たちが訪れてということでは、効率的な仕組みに病院の中はなっているんですね。
本のイメージでもあるコスモスの絵(組合員・小川正子さん作) この事例の中にも出てきますが、ターミナル期に患者さんが(夫が)亡くなっていくときに、すがって行きたいのにすがって良いのか悪いのか。逆にちょっと前は部屋から出てくださいと言って、家族は離されてそこで救急蘇生されるということで、亡くなってからご家族の方どうぞという形で。そこには、家族や家庭や地域ってないと思うんですね。いわゆる、生物体としての患者と言っては変ですけれどもいて、医療従事者が一方的な行為をして、終わった後に家族の方。そうではなくて、最後の場面にも地域とか家族とか家族の感覚とか匂いとかいろんなものがあって良いんじゃないか。もし、自宅で看取れなくても病室の中に家庭らしさ、ぬくもりとかあって良いんじゃないかという話をしたことがこの本にも出てくるんですね。
お産もそうで、「地域で産み育てる」と言ってきたんだけれども、自宅分娩ってどんな価値があったのかしらねえという話もしたんですね。そうした時に、ご近所さんがやってきて産むことを手伝い、お湯を沸かし、そこにおにいちゃんやおばあちゃんやおじいちゃんたちが一緒に参加をして産むことを励まして。で、そのことを見たきょうだいたちが命の大切さを理解したり、または近くのおばあちゃんたちや、やってきた人たちがその子が大きくなるプロセスの中で、「○○ちゃんは、こんなにして生まれてきたんだよ」とかって気を配る。で、何かあったらば声をかける。それが、「地域で産む」という時の重要なポイントなんじゃないかなと。
ただ、今こういう核家族でアパートだとか狭い空間の中でそれが不可能な時に、病院の中にもその家庭らしさ地域らしさというものがあってもいいんじゃないかしらという話をしたんですね。地域が産み育て看取るというのは多分、私たち自身は主体者としてではなく援助者。で、主体者たちは毎日のくらしの中で自分の健康のことや家族のことや仕事のことをたえず考えながら生きてく方。そいういうご本人の力と地域が支え合うっていう力が一緒にならない限りは、孤独死だとかということって起こるんじゃないかなと思っていまして、病院の中で看護を完結する、医療を完結すると考えるんじゃなくて、地域の中でこそ完結するように、私たちは色んな仕組みを整え、色んな行政とかヘルパーステーションとか訪問看護ステーションとかそういう色んな機関と繋がって行かなくてはならないんじゃないかなという風に思ってこういう風にしました。
本当は、「地域が」なんです。私たちのテーマは。「地域が産み育み看取る」なんですね。でも、「地域がなんですよ、あなたたちが主体者」と言われても困っちゃう。だから、私たちからすれば、共にだということで「地域とともに」に変えたんですね。
国は、医療費抑制のために地域で看取るということを推奨していくんですが、私たちは、自己実現のためにそういうことをお手伝いしていかなくてはならないんじゃないかと。目標が違うんですね。医療費抑制が目的ではないんです。
―医療制度の問題・課題と思われることを語っていただけますか?
牛渡:例えば、看護師が病棟を離れて看護する時があるとすれば、それは病棟の必要人数に込められないと思うんですね。国の制度は、「今、病棟の患者さん何人に対して何人の看護師がいるか」ということで診療報酬が入る中身になっているので、例えば赤ちゃんが泣き止まないときに病棟の職員が外に出てお母さんの援助することは、「そこに職員がいますね」ということにならないと思うんですよ多分。ただ、こういうことも含めて看護なんですね。無駄のような効率性の悪い仕事がとても重要です。そういうことを実現させることがきちっと評価されるようなことが必要だという気がするんです。
ナースコールに応えきれない。ちょっと待ってねがまだまだ多い。それでも、看護師の配置人数は2年前に増えたんです。それまでは、患者さん2に対して看護職員1というのが最高だったんです。今度は、1,4に対して1に増えたんです。それでも、ナースコールにすぐには対応しきれない。まだまだ看護師の数が少ないかなと。
日本の医療や看護は、医療従事者の犠牲の上に成り立っていると言われています。でも、そうではなくて、医師も看護師も同じ人間なんですね。だから失敗もしますし自分の生活も大事だと思っています。犠牲という言葉ではなくて私たちは労働者として専門職としてのサービスも提供しますし、同時にボロボロになるんじゃなくて犠牲じゃなくて、「やりがいがあるよね」って言えるような状態にならないといけないんじゃないかなあと思いますね。
―発刊にあたっての最後に、「想い(字には拘りました)が伝わってほしい」人たちが具体的に書かれています。ここで改めて、言葉にして伝えていただけますか?
これから看護師を目指す人たちへ
牛渡:看護って良い仕事だと思うので、こういう職業を選択してもらいたいなあ、良い人がいっぱい増えると良いなあ。『救命24時間』みたいなああいうのも看護なんですけれども、もっと患者さんの暮らしに寄り添っていくみたいな、そういう看護の喜びってあるんですよということを知ってもらいたいし、人間的にも自分が成長していくような看護にチャレンジしてほしいかなと思います。
心が優しいということが基本だとは思うのですが、人の体のことをよく知り、科学的な根拠に基づいて患者さんの苦痛を取り除くわけなので、やはり優秀な人材にこの道を選択してもらいたいなと思います。
患者さんへ
牛渡:患者さんにお願いしたいのは、諦めないでほしいという気がしますね。私も患者や家族の立場になると、遠慮して「こんなもんだろう」と思ってしまいますよね。でも、それは医療の仕組みの中でそうなっている部分ていっぱいあるので、諦めないで自分はこういう生き方をしたいとか、看護師たちに求めてもらっていいんじゃないかなと思います。
とはいっても私たちは、医療の仕組みや制度と切り離しては存在していないので、こういう医療や看護を受けるためにもっと看護師を公的に増やしてほしい、そのために国の大切な予算を無駄遣いしないで医療費を増やすことこそ自分たちにとって必要なんだということを患者さんの色んな体験の中から言っていただきながら、自分の生き方を自己実現といったものを諦めないでほしいなという気がしますね。
協同なんですよね。私たちが一方的に犠牲になるとかではできない。だけども、世の中の仕組みの中で医療が行われている。その仕組みの中をどうするかというのは、患者さん自信が幸せになるために求めることなんだということを知ってほしいし、看護師にも求め続けてほしいかなと思います。
一般市民の方々へ
牛渡:医師たちが、何かあったら訴えられるということに怯えているようでは、撤退して行きます。医療の現場で、その場で犯罪になってしまうことが地域医療を崩壊させていくんです。看護師もそうで、自分たちを守ることができなければこんな怖い職場は去って行きたい。そうなったら医療崩壊なんですよね。
住民・国民も、何がそうさせているのかということを考えていかなければ、「医療事故キャンペーン」だけで終わってしまいます。サービス業ではなく、公的な仕事としての医療をお互いがどう守り合えるかということをしていかないと辞めたくなっちゃいます。そうならないように、より良い選択を互いができるように一緒に考えていく時間があったら、お互いが、人間として生まれてきて良かったなあと思えるんじゃないでしょうか。
◇ ◇ ◇
ピンクの表紙と帯のこの本を、発行当初は『ピンク本』と読んでいたそうです。でも、イメージとして選んだコスモスの絵を描かれた、組合員である小川正子さんからコスモスの性質(強い)や名前の語源(無限に広がる宇宙の星)などの話を聞いて、本のイメージにピッタリだと思い、以来『コスモス本』と呼ぶようになっというお話も聞きました。
本の中には、このコスモスの花のしおり(小川さんの文章付)が入っています。字の大きさを大きくしたり、インタビュー形式を取るなど読みやすさにも配慮と工夫が見られる本です。
巻末の記入ページやメールでぜひ書評を寄せてくださいとのことでした。
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