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[第1回] 大ベストセラー『チームバチスタの栄光』作者は現役医師

 ダブルキャリアとは、複数の仕事をかけ持ちし、多忙だけれども、充実した職業生活を送る、そういう行為を指す言葉である。広い意味でいえば「副業」ということだが、小遣い稼ぎ、お金儲けがその筆頭動機ではないという点で、あえて「キャリア」という言葉を使っている。
 ひとつの会社に定年まで勤めるという雇用慣行が崩れる一方、人々が働く期間は明らかに長くなっている。夢を仕事にしたい人、充実したセカンドキャリアを送りたい人、「仕事は遊び、遊びは仕事」だと思う人、そういう人にお勧めしたいのがダブルキャリアだ。

http://www.president.co.jp/pre/special/5214/1/

 この連載では、2007年7月に『ダブルキャリア 新しい生き方の提案』(共著、NHK生活人新書)を上梓した荻野進介が、スーパーなダブルキャリア人たちを取材し、そのきっかけ、仕事ぶり、両立させるノウハウなどを伺っていく。
 第1回目は、現役の勤務医にしてベストセラー作家である海堂尊(かいどう・たける)氏にご登場いただいた。

(毎週更新・全4回)

 2005年9月、宝島社が主催する第4回『このミステリーがすごい!』大賞で、みごと大賞を獲得、翌年2月に発売された受賞作『チーム・バチスタの栄光』(宝島社)がいきなりミリオンセラーとなり、今年2月には竹内結子、阿部寛主演で同名の映画(東宝系)も公開された。作品自体は未読でも、タイトルを耳にしたことがある人は多いはずだ。
 海堂氏は1961年生まれ。外科医を経て、現在は研究系病院の病理医として勤務している。処女作の後も、『ナイチンゲールの沈黙』『ジェネラル・ルージュの凱旋』(以上、宝島社)、『螺鈿迷宮』(角川書店)、『ブラックペアン1988』(講談社)、『ジーン・ワルツ』(新潮社)など、精力的に作品を発表し続けている。
 医師、作家という2つの仕事をこなすだけでも大変なのに、最近は取材対応という3つ目の仕事が入り、毎日の生活は文字通り多忙を極めているらしい。インタビューの場所となった応接室に入ってきた時は、肩が下がり、疲れが相当にたまっている様子だったが、話が始まると、徐々に口調が熱を帯びてきた。


── 早速ですが、病理医とはどんなお仕事なんでしょうか。

海堂 大きな仕事が二つあって、まず生体検査(生検)です。病院で胃カメラを撮ると、「2週間後に来てください」と言われますよね。あの間、採った検体を顕微鏡の標本にし、それを観察して診断するという、裏方的な仕事をしています。患者さんから見ると、受け持ちの先生が診断もしているように思えますが、私たち病理医の診断結果を彼らが報告しているわけです。もうひとつが解剖です。

── 大学を出て、ずっと同じ病院に勤務されているのでしょうか。

海堂 いや、大学を出て、その大学病院の外科に入局し、外科医として6年働き、それから博士号を取りに再度、大学に戻ったんです。外科医の間は、1年ごとにいろんな病院を転々としていました。一種の武者修行です。裏を返すと、今まではそうやって大学病院が若手の研修医を派遣して地方医療を支えていたんです。
 ところが、厚生労働省が制度を改めて、研修医本人が行きたいところに自由に行けるようにしてしまった。そうやって、システムをぐちゃぐちゃにしたから地方医療が壊れてしまったんです。新聞やテレビはあまり報じませんが。

── そうですね。

海堂 そういう医療崩壊の現状も『チーム・バチスタの栄光』に書いたんです。医療界からは「こういうやり方で告発してもいいんだ」と結構、評判になりましたが、あくまで業界内の話です。
 私の本が少しはきっかけになったのでしょうか、そういう実態がようやく世論の表面に出てきたのが最近です。それまではメディアストッパーがかかっていたんです。特に新聞は官僚に遠慮しすぎるんですよ。記者クラブ制度がありますからね。記者さんたちから最近いろいろ話を聞くんですけど、官僚の人たちって自分たちの気にくわない報道をすると、仲間はずれにするようなこともあるらしいんです。まあ、ウワサなんですけど(笑)。
 でも、ここへきて、だいぶメディアの風向きが変わってきています。地方医療は本当に壊滅寸前で、現場からそういう声が続々上がりだしたから、メディアも無視できなくなった。『チーム・バチスタの栄光』に限らず、現場としては周知のことを盛り込んで作品を書いているんですが、読んでから、世間が「知らなかった」という反応をします。こうしたタイムラグを起こしているのは誰か、ということですね。

 書名のバチスタとは、拡張型心筋症の患者に対して行うバチスタ手術のこと。学術的な正式名称は「左心室縮小形成術」といい、肥大した心臓を切り取り小さくする、という単純明解な発想による。創始者であるブラジル人のバチスタ博士の名を冠し、そう呼ばれる。心臓移植の代替手術で、劇的に症状が改善されることが多いものの、難易度は極めて高い。

── そもそもどんなきっかけで、『チーム・バチスタの栄光』を書かれたんでしょうか。そういう医療崩壊の実態を世に知らしめたいから、だったんでしょうか。

海堂 いやいや、違います。トリックを思いつければミステリーは書けるという根拠のない自信をずっと持っていたんです。「今は書けないけど、思いつきさえすれば書けるから」って。そのトリックをたまたま思いついただけです。

── ずっと、というのは、いつぐらいからでしょうか。

海堂 実は小学校6年生のときに、最初の物語を書いたんです。短編の物語を書くヤツ、クラスで時々いませんか。あれですよ。『三国志』に夢中だったので、タイトルが『四国志』(笑)。大学ノート3冊。一部、二部、三部と。その頃から、何部構成というのが好きでした。登場人物はクラスメートで実名でした(笑)。気にくわないやつはやっつけましたけど、強く抗議されると手をゆるめたりして(笑)。

── 子供の頃から、本を読むのは好きだったんですか。

海堂 小学校1、2年のころから読書にはまりました。『ファーブル昆虫記』、『シートン動物記』を繰り返し読んだあと、今度はシャーロック・ホームズの児童版を、また何度も読みました。その後、好きになった作家が筒井康隆さんです。山のように出ていた彼の文庫本、中学、高校、大学でほとんど全部読みました。
 筒井さんが断筆宣言した前ぐらいから、勉強が忙しくなって、文学自体をほとんど読まなくなりました。国家試験の勉強を始めた5年生の頃から外科医をやっていた間の約8年間は、文学的な読書量はゼロに等しいです。博士号を取るために大学院に戻ってきて、基礎の研究科で病理に入ったんです。最初は博士号を取って、「外科医にすぐ戻ろう」と思っていたんですが、途中から病理のほうが面白くなっちゃった。「面白いから、これやろうかな」と思ったら、たまたま今の病院で、ポジションが空いていて、「行かないか?」って言われたので、「行きます」といって今日に至るわけです。
 「面白そうだな」と思ったら、とりあえずやってみる性格なんです。続けられるということは、それが自分に向いているからなんでしょう。学生の頃、僕は外科医に向いていると周囲から言われていました。実際、向いていたし、楽しかったんですけど、それに劣らず、病理医のほうも楽しいですよ。

── 医者か作家になるというのが子どもの頃からの目標だったんでしょうか。

海堂 医者も物書きも夢ではありませんでした。「やってみたい」という程度の気持ちはあったんですけれど。意思決定を迫られたとき、たまたま目の前にあったチャンスボールみたいな感じです。将来のことは、いつも目先1、2年のことしか考えません。それよりも、「5年後、世の中はどうなっているか」ということのほうに興味があります。自分、自分、という意識は全然ないですね。あまり自分を信用していないんですよ。

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