医療関係者が深刻な危機を訴える上映会
病院の窓口に置かれていたマイケル・ムーア監督の映画「シッコ SiCKO」の整理券を持って、上映会に出かけた。参加者の多くが病院関係者らしく、「先生、どうもありがとうございます」という挨拶が聞かれたり、どちらかというと高い年齢層の中にまじってデートを兼ねた看護師さんらしいアベックなども見られたりする。
http://www.ohmynews.co.jp/news/20080316/22175
パンフレットとともに渡されたアンケートには「石川県医師会」とあり、上映前には医師会の代表として市街地にある外科医院の先生が挨拶をされた。
その内容は、現在の医療崩壊、医療破綻と言われる状況が約25年前に政府の行ってきた医療費抑制や医師数削減に端を発していること、OECD加盟国やG7内での医療費の占める割合、医者の数において日本が最下位のグループに入ること、概算では医療費で20兆円の不足、医師数で14万人が不足している――ことなどの話だった。また今後、現在の健康保険に民間保険を加え混合診療に移行する危険性について映画を通して考えてほしいというものであった。
「ボーリング・フォー・コロンバイン」「華氏911」に続くマイケル・ムーアの監督の3作目「シッコ」の鋭い切り口は、アメリカの民間保険の加入手続きや保険金の支払いの胡散(うさん)臭さをつき、高収入の職についていてさえ医療費が払えないために貧困に転落していくアメリカ社会を何人もの事例から露(あら)わにしていく。
入っている保険のメニューから、何の検査をするか、どんな手術をし、投薬をするかなどが決められていく。何よりも入院費が払えない患者を治療途中で路上に放置する現状などは背筋が寒くなる思いであった。怪我の部位を自分で縫う若者や、2本の指を切断したのに、うち1本しか手術できない労働者、癌と疑っても検査を受けられないなど、アメリカの医療の現実は随分厳しい。
そうした自国の現状を描く一方、医療費は原則無料のカナダ、イギリス、フランスの3国を取材し、安心して医療を受けられる豊かさとの比較を見せている。中でも移民を多く受け入れ、そのことによって大きな問題を抱えるフランスが、訪問診療などを随分手厚く行っていることを初めて知ったことは驚きだった。そうした世界の流れと逆に、日本はアメリカ型、どんどん受益者負担型へと傾き、格差社会が医療の面にも広がりつつあるのではと感じた。
健康保険は現在、老人健康保険を除いて一律3割負担となっている。わが家では家族5人のうち高齢者が1人。昨(2007)年度の医療費自己負担額は合計約15万である。大きな病気をしたときのために、民間の医療保険や生命保険の特約をつけていることは言うまでもない。掛け金が相当な額になっても、もしものリスクに備え、1年が終わった時点で健康でいられたことを感謝し、相互扶助である保険で誰かのための幸せに使ったのだと考えている。
しかし、日本で昨年発覚した民間保険会社の未払い問題などは、「シッコ SiCKO」の指摘そのものである。混合診療の導入によって格差が広がり、同時に民間会社の経営リスクなどの要素も加わって、不安をさらに広げていくことは間違いないだろう。
「シッコ SiCKO」では、医療を受ける立場からばかりでなく、医療現場に立ち会う医師についても随分考えることがあった。医療費が国家負担となっている前述の3か国では、医師の給与も労働時間も日本よりはるかに優遇されている。おそらく医師は社会的地位も高く尊敬される対象なのだろう。もちろん日本の医師も専門職として特別な敬意を払われている。しかし現在の日本の医師の現状を見たら、こうした国の医師は「クレージー!」と叫ぶのではないだろうか。
医療をめぐる問題は今、医師会が喚起しなければいけないと感じるほどに差し迫っている。医師、技師、看護師などの医療従事者の声を真摯(しんし)に聞いて、われわれ一人ひとりも自分の問題として考えていかなければならないと思う。
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