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TOP >  医師不足で医療崩壊

「頑張りすぎないで……」に励まされて

2004年の研修医制度創設以来、医療崩壊のニュースが多い。年に8000人弱の医師が増えているとはいえ、全般的に医師不足で医療現場は忙しく、救急患者を引き受けることが出来ないので、たらい回しが増えているという。

http://www.ohmynews.co.jp/news/20080115/19715

 医療機関の療養型病床では診療報酬は月16万円/人にしかならないが、介護施設だと多ければ月30万円/人の介護報酬が入る。だから、「バカらしくてやっていられない」と19床の入院施設を持っていた医院が入院施設を閉鎖した。一方、多くの治療を必要とするガン患者が入院治療を受ければ1人月100万円超の治療費がかかる。だが、これを家で看れば10万円で済む。それで政府は、医療費の圧縮につながるとして在宅看護を奨励しているらしい。

 高校時代に読んだ『蛍雪時代』で、東大医学部の著名な教授が、法学部を受験し落っこちたので、医学部に入ったと体験談を話していたのを覚えている。今でも開業医経験者は、医学部は止めて東大の法学部に行って、国家公務員になった方が良いとアドバイスする。そして、医者の現状を知らないから医学部を目指してしまうのだ、などと嘆く。

 医療に関して不安なニュースが多い。高齢者や病人を抱える家族はストレスが溜まるばかりである。

 私の母は認知症に加え、新たに進行性のガンが見つかり、終末医療を経験することになった。女性の平均寿命である86歳になっていたが、40歳の頃にC型肝炎の原因である治療を大学病院で受けたことがあり、ゆくゆくは肝硬変、肝ガンの危険が指摘されていた。そのために医師の注意を守り、食事にも気をつけ独り暮らしをしていたが、急に「寂しい」と言いだし、もの忘れも多くなった。そこで、1人での生活は無理と判断し、2年前に同居することになった。

 家内が、地域でイベントがあれば外に連れ出した。「ありがとう。今日は楽しかった」と口癖のように言っていた。しかし、次第に疲れて外に出ることも億劫になり、食事ものどを通らないようになった。かかりつけ医の下で超音波検査を受けた結果、ガンの疑いが出てきた。すぐ地域の中核病院を紹介され、受診したところ、進行性のガンであることが分かり、1週間の検査入院になった。

 認知症患者の入院は、いろんなことに注意しなければならない。徘徊しないか。昼と夜を間違えていないか。トイレは自分でいけるか。トイレに行った後自分のベッドに帰れるか……。ベッドからの転落防止のため、体の動きに対応するセンサーをつけること等もチェックされる。付き添いを要求される可能性もあったが、母の場合はその心配はなかった。

 しかし、この病院は地域の中核病院のために、長期の入院は出来ない。1週間後には、自宅療養か、転院が必要になる。

 本人も家に帰りたいとの希望を持っていたので、自宅療養する方法を選んだ。看護師さんの「がんばりすぎないで。何かあったら私たちに相談してください。緩和ケアの病棟もあるので利用を考えて見てください」という言葉に励まされ、1週間後に退院した。

 かかりつけの医師に紹介状を書いてもらい、医師の訪問診療をおねがいした。実際には訪問看護施設の看護師が毎日訪ねて来て、その結果を医師に報告。必要に応じて中核病院の医師と連絡を取ってくれた。この地域では、今こういうシステム作りを奨励している。

 私や家内が都合の悪い時間帯はヘルパーさんをお願いするという手はずを整えて、自宅での介護を始めた。最初はどういう体制を取れば良いのか分からず、不安な日を送っていたが、介護支援専門員(ケアマネジャー)と相談するうちに、いろんな制度が整備されていることが分かってきた。看護師は「そんな制度があるんですか、という人が多いですよ」と言う。

 手助けするたびに「ありがとう。ありがとう」という母に、家内が「ありがとうと言わなくてもいいんですよ。当たり前のことをしているんだから……」というと、母は「その当たり前のことが出来なくなって来ているんじゃ」という。

 しかし、病状の進行が早く、在宅療養を始めて10日後には再入院となってしまった。素人には病状の変化をどう判断して良いか迷うことがあるが、かかりつけ医に、早朝往診してもらい判断を仰ぐと「痛みも出てきたようなので、入院しましょう」と言うことになった。

 車いすでやっと動ける状態であったが、緊急性から考えて救急車を呼ぶのは止めて、医師の車で病院へ搬送し、当直の医師に病状を説明して引き受けてもらった(車いすやベットごと搬送できる福祉タクシーを頼む方法もある。ケアマネジャーを通じて介護保険のサービスを頼むこともできる)。

 年齢的な問題、手術は不可能、痛みも出てきたことから「緩和ケア」病棟での対症療法を選んだ。私たちの周りの人たち、ガン患者介護の経験のある人は「緩和ケア病棟に入れて良かったね」と喜んでくれた。


公立富岡総合病院の緩和ケア病棟(3F) この地域では2箇所目の病棟。病院経営を聞くと「厳しい」という。自治体の一般会計からの繰り入れがあるのだろうか(撮影:矢本真人 2007.11.30)

 緩和ケア病棟の看護師さんは質が高い。入院時、担当者が変わるたびに「ご家族としてどういう看護をご希望ですか」と聞かれる。昼食、夕食の時間帯には、家内と2人で病院に、果物や好きだったおかずを持って行ったが、熱心に看病する家内に、看護師さんが「疲れませんか、すこし私たちに任せてみませんか」とアドバイスしてくれた。

 正直言って疲れが溜まってきた頃で、看護師さんに任せて、夕食時に見舞うことにしたが、母は数日後のクリスマスイヴに息を引き取った。

 今回の母の介護で反省すべき点は、認知症だがトイレは自分で出来ると安心してはいけないこと。そして体や排泄物からの異常を察知することが出来なくなっていたことだ。ときどき一緒に行って「異常があるかないか」を確認するべきだった。そうすればもう少し早く病状の変化が確認出来たと思う。

 認知症もまた、捨てたものではない。母は最後まで痛みを余り訴えなかった(病院でも通常のモルヒネ使用量の3分の1しか使っていない)。私たち周囲の人間も冷静に、見つめることができた。

 母はいろんなことを私たちに教えてくれた。老人介護の大変さがやっと理解出来るようになった。

 看護師さんやヘルパーさん、介護士さんの待遇改善なくして持続可能な老人介護は期待できない。

【編集部注】本文の一部字句を訂正しました(2008/01/16 18:42)

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