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TOP >  医療費抑制で医療崩壊

「医療崩壊」は,根本的には,国の医療費抑制政策によるもの

「医療崩壊」は,根本的には,国の医療費抑制政策によ

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革」からで,社会保障分野に大鉈が振るわれた.

二〇〇一~二〇〇六年の過去五年間で,あるべき社会保

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http://www.med.or.jp/nichinews/n191105d.html

第117回日本医師会臨時代議員会

所信表明(要約)

日本医師会長 唐澤人

 現執行部の発足以来一年半が経過したが,この間,日医の会務運営と各事業に対し,ご理解とご支援をいただいたことに心から御礼申し上げる.

 本年は年初より統一地方選挙など,選挙の多い年で,参議院選挙は,国政の方向を占う選挙であった.選挙結果は政権与党たる自由民主党が大きく議席を減らし,参議院では与野党逆転という国会運営になった.

 数度にわたる選挙の過程で,国政において見過ごされてきた地域医療や,生活と生計にかかわる諸種のシステムが,各地域で崩壊の危機にあることが浮き彫りにされ,全国に生じた地域間格差は一段と広がり,国民の不安と不信感が高まった.国の近年の性急な財政優先の構造改革路線は,国民医療をはじめ日常生活や生計に大きな疲弊をもたらした.今後は,日々の安心を得たいという国民の目線に立った政策の推進が一層重要で,政策転換を含めた大命題になっている.

 このような政治状況のなか,日医では,昨年十月と本年三月,全国の一般の方々千名以上を対象として,日医に対する意識調査を実施し,日医のテレビCMを放映する直前と,放映後半年が経過した時点での認知度を比較した.

 その結果,日医の活動に対して「関心あり」とした方の比率は,放映直前の一五・六%に対し,半年後には一八・九%と三ポイント以上アップしていた.同様に「期待あり」と回答した方々も一九・三%から二二・九%と三ポイント以上アップしている.半年間のテレビCM放送で,劇的な変化とは言えないが,関心と期待度は少しずつ上がってきた.

 一方,認知度は放映前後ともに九五%で高い数値を示しているが,日医の活動内容は一般国民の方々にはあまり知られていない現状にある.

 中学の「公民」や,高校の「現代社会」の教科書を調べてみると,「圧力団体」の例として,日医の名前が出ている.「圧力団体」という言葉が必ずしも否定的な意味合いのみを示しているわけではないが,日医は,日本の社会保障政策,とりわけ医療・保健・福祉分野では積極的に提言を行い,行政とも連携し,疾病予防にも取り組み,学校では学校医が,会社では産業医が,それぞれ活動している.医師会組織が,健康に関しての地域の事業に深く関与していることなどを,さらに周知していく必要がある.

 最近,マイケル・ムーア監督の映画『シッコ』が上映されている.この映画は,米国の四千五百万人以上の無保険者ではなく,民間医療保険に加入している一億五千万人の悲劇を描いている点が,わが国の医療の方向を論じるに当たり,重要な課題を提示している.

 今,わが国は,国民皆保険制度が大きな危機に直面しているが,危機が特徴的に現れている以下の五点について申し上げたい.

 第一に,分娩を受け入れない医療機関が全国的,かつ急速に増え,多くの女性に大変な不安感を与えている.分娩実施施設数は一九九六年が三千九百九十一施設であったが,十年後の二〇〇六年には二千九百三十三施設と二七%も減少.産婦人科を標榜していても婦人科だけという医療機関も出てきた.

 その背景には,過重労働を原因として離職することに加えて,分娩中に事故が発生すると,刑事裁判になるケースが増加していることが挙げられ,その結果,分娩を受け入れない医療機関が増えたり,産科医志望の研修医が非常に減少した.

 日医は対応策の一環として無過失補償制度の制定を提案し,実現する見通しとなった.この制度で,安心して赤ちゃんを産める方向に進展させていきたい.

 第二は,小児救急医療における小児科医不足である.休日・夜間救急センターを訪れる半数以上が小児患者である.小児科勤務医が非常に少ない状況のなかで,日中,通常勤務をした後,そのまま当直に入り,夜中の救急対応に追われ,一睡もしないまま,再び昼間の勤務に就くといった例も珍しくない.このような状況から,小児科を閉鎖する病院も全国的に出ている.一九九六年には,全国の病院の三五・二%に小児科があったが,二〇〇六年には二九・二%と,六ポイント減少.本来,これらは国や地方自治体が解決すべき問題だが,地域医師会が中心となり,夜間の一定時間帯を地元の開業医が分担するなど,率先して小児救急医療への対応を図っている所もある.小児科勤務医の過重労働は想像を絶し,日医は,この問題を喫緊の課題として位置付け,各地域の医師会と一層協力しながら取り組んでいきたい.

 第三は,孤独死の心配である.近年,急激な高齢化が進み,後期高齢者のみの世帯人口比率が増加し,二〇〇五年には後期高齢者の三三・二%と,三人に一人は高齢者のみでの暮らしであり,孤独死も大きな社会問題となっている.こうした状況下,厚生労働省は「療養病床再編」という名目で,三十八万床ある療養病床を,二〇一二年には十五万床にまで削減しようとしており,削減の理由を,高齢者の「社会的入院」にあるとしている.

 しかし,日医が入院患者の実態を調査したところ,胃瘻経管栄養や喀痰吸引の患者も相当数おり,全身管理とともに医療でなければ対応できない患者の実態を客観的に考えれば,長期療養病床は二〇一二年の時点でも二十六万床が必要.このような患者が病院から追い出されれば,「医療難民」や「介護難民」が大量に生じる.

 日医は,療養病床の大幅削減には断固として反対する.急激な変化は避け,施設にせよ在宅にせよ,然るべき準備を整えてから徐々に移行を考えるべきである.また,療養病床に入院中の患者は,必ずしも在宅での療養を第一希望と考えているわけではない.

 第四は,日本の医療費水準である.日本の医療達成レベルは,世界保健機関(WHO)から世界一という評価を受けている.しかし,日本の対GDP(国内総生産)比総医療費支出は,先進国が加盟しているOECD(経済協力開発機構)三十カ国のなかで,二〇〇四年の数字で二十二位.三十カ国の平均が八・九%であるが,わが国は八・〇%.経済大国の日本の医療費が世界的に見て非常に低いことが,公的な数字で実証されている.

 第五は,医師の絶対的な不足である.日本の医師数を人口千人当たりで見ると,OECD加盟国平均の三・一人に対し二・〇人.フランス三・四人,ドイツ三・四人,アメリカ二・四人などであるが,一人当たりGDPがOECD加盟国の平均以上のグループのなかで最下位となっている.絶対数の不足のうえに,都市と地方の格差がある.この原因は,二〇〇四年四月からスタートした新医師臨床研修制度を契機に,大学病院の各医局の医師派遣機能が弱まったことにある.医師の需要が供給を大きく上回り,設備や指導体制が整った都市の病院,あるいは一時的にでも高額な給与を提示した病院などに研修医が集中した.

 日本の医療達成度が世界一であるのは,国民の勤勉性や健康意識の高さもあるが,医師,看護師など医療関係者の犠牲的な医療活動に支えられていることを再確認し,評価すべきである.

 「医療崩壊」は,根本的には,国の医療費抑制政策によるものであり,バブル経済の崩壊以後始まった.しかし,より顕著になったのは,小泉政権の「聖域なき構造改革」からで,社会保障分野に大鉈が振るわれた.

 二〇〇一~二〇〇六年の過去五年間で,あるべき社会保障費(国の負担分)の自然増に対し,国庫ベース累計で三兆三千億円が失われた.医療の自然増とは,医学・医療の進歩によって増加する費用のことで,毎年二~三%と言われている.社会保障費三兆三千億円の削減額の実に七割が医療・介護費の抑制で占められ,「安心のためのコスト」どころか,「安全のためのコスト」さえも確保することが困難となった.それを実証するかのように,今年は医療機関の倒産が,過去最悪のペースで進んでいる.今後五年間も医療費抑制政策が続けられれば,十年間の累計で,あるべき社会保障費から十二兆円の国庫支出が削減され,約八兆円の医療費が失われる.

 医療費の抑制は給付費の抑制を企図したものであり,患者負担の増大という形で,国民に跳ね返ってくる.また,医師や看護師など医療従事者の確保が難しくなり,過重労働が起こり,患者一人ひとりに対する診療時間の減少など,国民にも大きな不利益をもたらす.

 経済財政諮問会議,規制改革会議などの委員のなかには国の負担を減らすため,保険免責制や混合診療の導入を考えている人もいる.しかし,それでは医療の平等性を確保することは困難になる.

 われわれは,医療費をアメリカ並みにすることを主張しているわけではなく,国力・経済力に見合った医療費規模を達成させ,地域の医療提供体制を充実させるべき,と提言している.これは日本の経済成長に貢献してこられた方々や,健康に不安を抱えている人とその家族が安心して生活できる第一歩である.

 近年のわが国の政治は,もっぱら経済財政運営のみに重点を置き,増え続けてきた国債借入残高に呪縛され,財政収支のみにとらわれてきた.

 国家の最高の財産は,国民である.国家の第一の責任は,国土と国民の生命・財産を確保し,日々の生活を守り,充実した人生を全うし得る社会,安全で信頼できる地域社会の確保であり,社会の最小構成単位である家庭と家族にとり,展望を持った充実した生活基盤の構築を可能にすることにあると考える.

 国富が国民の福祉に十分,有効に貢献しなければ,とうてい国家百年の礎など築けるはずもない.少子高齢化の進展とともに,地域の疲弊と格差の増大と不安が蔓延することは避けなければならない.

 今こそ,日本国憲法第二十五条に規定する,国民の生存権の保障と国の社会的使命を掲げた条文を再確認する必要がある.今こそ,地域の安全と安心のための地域医療体制の存続が危機的状況にあること,国民皆保険制度の堅持と強化のための政策が重大な時期にあることを,国民に説明し,理解を求めなくてはならない.

 日医は,『グランドデザイン二〇〇七(総論)』に続き,『各論』を発表した.日医は,国民にとって良質で満足度の高い医療が普遍平等に受けることのできる国民皆保険制度を一層強固なものにすることを目指す.そのために,国民の生命と健康を守る立場から,国民と同じ目線で国に対する積極的な提言をし,同時に,日医が対応すべき課題には迅速に率先して取り組んでいきたいと考えている.

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