良質な医療は健全な経営が支える
良質な医療は健全な経営が支える
川崎市病院事業管理者・武 弘道さん
「医療界のカルロスゴーン」「病院改革請負人」など、さまざまな異名を持つ。鹿児島市立病院、埼玉県立病院、川崎市立病院で病院事業管理者として改革の先頭に立ち、ことごとく経営再建を成し遂げてきた。根底にあるのは「良質な医療は健全な経営が支える」という考え方だ。(兼松昭夫)
http://www.cabrain.net/news/article.do?newsId=10226
■川崎市立2病院、06年度も黒字計上
2005年4月に川崎市の病院事業管理者に就任すると、早速実力を示した。市立2病院(川崎病院、井田病院)の収支は同年度、計7億1,000万円の黒字を計上した。04年度の計10億6,000万円の赤字から、単年度で一気に17億円以上の収支改善を果たした計算だ。
さらに、診療報酬が引き下げられ、全国の病院が軒並み苦戦を強いられた06年度も計7億6,000万円の黒字計上をたたき出し、改革がまぐれでないことを証明してみせた。
自治体病院の運営で舵取りを担うのは川崎市が3カ所目。
もともとは鹿児島市立病院で小児科医として勤務していたが、1993年、同病院の病院事業管理者に就任した。採算割れしやすい周産期医療センター、救命救急センターを抱えながら8年連続で黒字を達成すると、当時の土屋義彦・埼玉県知事に、県立病院の建て直しを三顧の礼で懇願された。その姿を意気に感じ、3年間で30億円の収支改善を約束して申し入れを受けた。
■苦戦する自治体病院
“病院経営冬の時代”と言われる中、自治体病院にとってその厳しさはひとしおだ。全国自治体病院協議会が昨年6月に実施した調査では、各地の自治体病院の6割以上が赤字であることが明らかになっている。これら赤字病院の多くが自治体の一般会計からの繰り入れに頼らざるを得ない状況にあり、地域から批判を浴びてもいる。
苦戦を強いられる背景には、自治体病院が抱える制度上のさまざまな矛盾があるとされる。
役所から赴任する事務方の担当者は通常、数年のスパンで異動を繰り返す。病院経営がようやく分かり始めたと思ったら次の異動の時期がやってきて、代わりに病院に赴任したのが医療のイロハも知らない素人だった、なんてことも少なくない。
また、病院運営上の責任の所在があいまいな点も問題視されている。予算編成や職員の新規雇用などの決定権は自治体そのものにある。健全経営という結果を求められる一方で、病院長に与えられる権限は極めて小さいのだ。「これでは誰も本気で改革しようなんて考えない」(武さん)
■「医療界のゴーン」誕生
埼玉県立病院の改革ではまず、こうした矛盾にメスを入れた。自治体病院を規定する地方公営企業法を「全部適用」に切り替えると、一般企業のCEOに相当する「病院事業管理者」に自ら就任。職員の新規雇用や予算編成、事業計画などに関する裁量を大幅に拡大した。
そして、現場の改革に着手。各病院から前日の外来患者数や売上などに関するデータを送信させ、指標ごとの日別推移を集計して返信する取り組みを始めた。各病院の収支状況を明示することで職員に経営感覚を植え付けるとともに、同規模の主要な自治体病院とのベンチマークで自院の弱点を洗い出す狙いがあった。
さらに、最も人数の多い看護部門が改革のイニシアチブをとるべきという持論も実践し、4病院すべてで看護部長を副院長に据えた。これによって看護部門が奮い立ち、院内の状況を熟知する看護師の声を、病院運営に反映できるようになった。
改革は功を奏した。県立4病院の患者数は3年間で10%以上増え、収支状況は4年間で計74億円改善した。「医療界のカルロスゴーン」の名が全国に知れ渡った。武さんは、「いろいろなことをやった。成果はそれら一つひとつの積み重ね」と振り返る。
そして今、武さんは川崎市の病院事業管理者として同じ手法を取り入れている。
「経営が健全でなければ、良い医療は提供できない」――。そんな思いが改革の原動力になっている。
■医療界は幕末並みの混乱期へ
そんな武さんにして、近年の医療界の状況はただごとではないと感じている。
「戦後40年のツケが一挙に噴き出して、“幕末の日本のような混乱期”にある。今までの小手先の手法ではもう切り抜けられない」
「突破口は?」と聞くと、「わかりません。それぞれの病院がよく考えて、変わらないと」という答え。
病院改革リーダーの真骨頂が発揮されるのは、むしろこれからなのかもしれない。
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